ドイツに学ぶ(3)
前回のドイツに学ぶ(2)の続きのようなセミナーが
香川県高松市で行われましたので、行ってきました。
セミナー案内を見ると、業界では有名?な、「2万人のアンケートで
高気密・高断熱住宅に転居した後の病気の罹患率が下がったことが
分かった。」というデータを発表した、近畿大学建築学部の
岩前学部長の名前が!!
2015年から全ての新築住宅でエネルギー性能を計算することを
建築業者に義務付ける、長野県の担当課の人の話もあるようです。
これは是非直接聞いてみたい!!と申し込みましたが、
その下に小さく「高松会場には来ません」・・・ガックリ!!!
しかもこの一文に気づいたのは会場に到着してからでした(T▽T)。
最近ちょっと疲れ気味ですが・・・何とも情けない醜態をさらしてしまいました。
しかし他会場と同程度の内容は聞けるであろうと思いまして、
気を取り直して聞いたところ、なかなか中身のある内容でした。
二人の代わりに長時間話したのは、最近業界的に露出度の上がっている
一般社団法人エネルギーパス協議会の今泉氏です。
この方はとてもプレゼンが上手で聞きやすく、また、スライドも
よくできていて1枚ごとに広告のキャッチコピーを見せられているような
インパクトがあります。
その見せ方のうまさの影響を受けすぎないように冷静に見ていても、
ごもっとも、という内容が多く、勉強になりました。
セミナーの時間の9割以上を、「性能の高い家が必須である」ことを訴える
ために使っていましたが、内容的には藤井社長が普段話していることと
似ており、ヒートショックの話や、免疫力の話、ドイツをはじめとする
諸外国の方が住宅の性能に対する意識が高く、法整備されている話など。
この手の話は、いつ聞いても聞けば聞くほど日本に失望します。
イギリスでは、室温リスクの高い住宅は改善命令が出て、罰金の対象にもなる。
住宅の性能のグレードにより、住人が入る保険の金額が異なる(住人の病気になる
可能性が異なることが認知されている)。
日本の次世代省エネルギー基準の非暖房住宅の室温の目標値は10℃だが、
エスキモーのイグルー(かまくら)はろうそく1本で室温が13~15℃になり、
これに負けている、など。諸外国と比較して日本の住宅の室温の低さを
うたう例には、枚挙にいとまがありません。
日本の中でも、商業施設にはビル管理衛生法と言う法律で室温を17~28℃に保つ
ように決められているが、住宅には法律がないのはおかしい、という指摘など。
また、初耳の話では、ある書籍からの引用で、
冬は室温22度から24度に上げると、夏は27度から25度に下げると、
学習効率が15%アップしたというデータがある、ということでした。
高性能住宅のメリットを表現するにもいろんな切り口があるものだなーと
同業ながら、感心させられます。
で、結局外国の方がキチンのできていることが分かって、その上で
どうするんですか、ということですが、
「EUではすべての国で義務化されているエネルギーパス(住宅の燃費を
表示する方法)を使って、家の燃費を表示・比較できるようにしましょう。」
という内容です。
これ自体は有効な話で、長野県では2015年からエネルギーパスか、
他の方法を使ってでも、家の燃費を算出するという義務が建築する業者側に
課せられます。
これ自体は否定する動きではありませんし、切な一歩だと思います。
また、2020年に日本でも義務化される改正省エネルギー基準や、それに
先駆けて今年から始まった低炭素認定などは、「太陽光発電すれば建物の
性能が低さをカバーできる」というような計算方法になっていますが、
エネルギーパスはそのような優遇は無く、建物の性能単体での評価になる
ので本質に近いと思われます。
一つ気になるのは、これは日本の長期優良住宅、改正省エネルギー基準など
とも同じなのですが、設計値・理論値・計算値であるということです。
質問して確認してみたのですが、現場での施工精度は加味されません。
設計で提示した燃費と実際の建物の性能がずれているかどうかに関しての
話は特にありませんでした。
例えば、燃費を算出する際に入力する値の中に、断熱材の厚みなどから算出する
Q値(熱損失係数)や窓の種類や方位、面積から算出するη値(日射取得係数)
以外に、お馴染みの気密性能C値(隙間相当面積)も入力するようになっていました。
「まだ建てていない建物のC値をどうやって入れるのか」という質問については
2.0を入れるか、その会社ごとの実績値から決めて入れてもらう、ということでした。
つまり、エネルギーパスは、設計上、理論上の性能であるということは念頭に
置いておく必要があるかなと思います。
ただ、住宅の性能を分かりやすく示す方法としては、エネルギーパスは
最終的に金額での表示になっているし、EUでは標準仕様になっている
ことも含め、今までのものより分かりやすいとは思います。
(1)まず設計上の性能が分かりやすいこと(設計値の域を出ないのは仕方ない)
(2)設計通りの性能を実際の建物で出せているかをどこまで追及しているか
この両方が達成して初めて、夏涼しく、冬暖かい快適な住宅の恩恵が受けられます。
日本の住宅に関しては(1)自体の動きが遅く、大きな課題だと思いつつ、
また、諸外国で(2)はどうなっているのか、提示した燃費と違う、という
ギャップの問題や検証は無いのか、という疑問を持ちつつ、会場を後にしました。
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